(1)現状と課題
経済産業省「商業統計表」によれば、中小卸売業(注1)の商店数は約42万3,000店となっており、全体の99%を占める。また、年間販売額は309兆円であり、全体の62%を占めている。次に、商店数及び年間販売額を比較すると、中小卸売業は大企業に比べ、商店数の減少には若干歯止めがかかっているものの、年間販売額の落ち込みは逆に顕著となっている等、厳しい経営環境にさらされている(第213-16図)。
特に近年においては需要の落ち込みが顕著となっている。中小企業庁・中小企業総合事業団「中小企業景況調査」によれば、「需要の停滞」を経営上の問題点ととらえている中小卸売業が全体の5割を占めている(前掲第211-1図)。このような需要の停滞の背景には以下の理由が考えられる。
※注1 ここでいう中小卸売業とは、従業者数99人以下の商店を指す。
1)取引先である中小小売業の販売額の低迷
中小卸売業の取引先は主に中小小売業であると考えられるが、中小小売業は近年の消費の低迷や競争の激化により、特に小規模小売業を中心として販売額が落ち込んでいる(後掲第213-26図)。
2)小売業及びメーカーにおける取引先の集約
1)で見たとおり、小売業にとっても昨今の経営環境は厳しい。このような中、小売業は取引先である卸売業の選別を進めることにより、効率化を図ろうとする動きがある。中小企業庁によるアンケート調査によれば、過去5年間に取引先を集約した小売業は、「大幅集約化した」「やや集約した」を合わせて40%から50%存在しており、仕入先の絞り込みが徐々にではあるが確実に進行していることが分かる(第213-17図)。また、この傾向は今後も続くと考えられる(第213-18図)。
一方、メーカーに対し、「今後の流通チャネル政策は大きな転換を余儀なくされると思うか」という問いを行ったところ、「卸売業経由の流通チャネル政策を主体に維持していくが、徐々に小売業直結の流通チャネルのウエイトを高めていくだろう」という回答が約7割存在している(第213-19図)。このことから、メーカーにおいても、販売経路はまず卸売業を起点と考えているものの、将来的には小売業直売等を徐々に取り入れていく意向がうかがえる。
第213-16図 卸売業の商店数・年間販売額の前回比
第213-17図 小売業における仕入先卸売業との取引関係(過去5年間における傾向)
第213-18図 小売業における仕入先卸売業との取引関係(今後の意向)
第213-19図 メーカーにおける流通チャネル政策(今後の基本的な転換方向)
(2)中小卸売業に求められる役割
以上のことを考慮に入れると、今後中小卸売業には、以下の二点が求められると考えられる。
第一に、リテールサポート(小売支援)の強化である。中小卸売業にとっては、取引先小売業の業績の回復が自社の需要の増加に直結することから、また、取引先小売業の支持を受け、継続的な取引を行っていくためにも、小売業の経営を積極的に支援し、信頼を獲得する必要があると考えられる。
第二に、メーカーと小売業の中間に立っていることをビジネスチャンスととらえ、情報の円滑な流れをサポートする媒介機能を強化していく必要がある。後述の2)情報のマッチング機能の強化、で詳述する。
1)リテールサポートの強化
小売業に対して、「卸売業が提供する販売支援活動に対する今後の意向」を聞いたところ、「小売店舗における商品差別化に寄与する商品情報の収集・提供」を始めとして、各種の小売支援に大きな期待をしていることがうかがえる(第213-20図)。
卸売業の経営状況の改善のためには、取引先である小売業の業績向上が欠かせず、卸売業自らが小売業の経営支援を積極的に行っていく必要がある。
そのためには、自社の経営の効率化を行い、マーチャンダイジング機能を強化することにより、適正な取扱商品、価格、時期、数量を取引先小売店に的確に提示していく必要がある。また、リテールサポートを行う際には、大量の情報を一括して扱う必要性があることから、ITの導入が有益なツールとなる。
以下では、プライベートブランド(以下、PBという)商品を武器に、「菓子部門」というニッチの小売支援を展開し、小売業の支持を受けている事例を紹介する。
第213-20図 卸売業の販売支援活動に対する、小売業の今後の意向
<事例 PB商品開発と小売支援システム構築により菓子部門でニッチを開拓>
A社(広島県、従業員数189人、資本金2,000万円)は、自社開発の物流システムとPB商品を武器に、小売店にとって通常「お荷物」的存在である菓子部門の棚割支援を行う菓子専業卸である。同社が小売店の支持を獲得している理由は、「菓子部門」というニッチ部門に対し、「粗利」が確保できるような小売支援を行ったことにある。
【小売支援の前提となる、粗利を出すための徹底的なコスト削減】
同社は、自身がその中核となり菓子卸の共同仕入・商品開発グループを結成、物流コストを引き下げる一方でPB商品の開発に着手した。PB商品は、企画提案者自らが価格や流通ルートの設定を行うため、ナショナルブランド(以下、NBという)商品よりも低コストでの取引が可能となり、利益率の向上につながる。この結果、NB商品の取引に偏りがちな既存卸売業に対して、優位性を保つこととなった。
また、同社では徹底的なコスト削減意識から、未納品があると自動FAXでメーカーに問い合わせる自社開発の物流システムを稼働させた。
【粗利確保を目的とした小売支援システム構築の成功】
大手スーパーにおいて、通常、菓子はあくまでも関連購入品でしかなく、また、商品メンテナンスが困難であるため、菓子部門は売場面積当たりの粗利益高が相対的に低く、全体の「お荷物」的存在となっているのが一般的である。同社は、大手スーパーが今まで手を出さないでいた「菓子部門の粗利確保」というニッチの部分に着目し、菓子部門で粗利を生むような棚割を小売店に提案している。同社では、自社で扱う商品を単品管理できるシステムを開発していたが、それを一歩進め、それぞれの商品につき各小売店での販売個数や粗利益率等を計算できるようにした(注2)。また、どの商品をどこに配置すれば最も効率的かを、得意先小売店で仮説実験する等、ノウハウの蓄積を図った。この小売支援により、実際に取引先小売店の菓子部門における粗利益率等が向上したことで小売店の支持を獲得することに成功した。
※注2 同社では取り扱う商品について一品ずつ仕入原価、卸に係るコスト、利益等を電算管理しているが、それに各小売店での販売個数の時系列データ等を組み合わせ、各個店ごと、各商品ごとの粗利益率を算出している。
2)情報のマッチング機能の強化
従来、卸売業は、長期安定的取引慣行の中で、メーカーから仕入れた商品を小売業に販売するという商品供給機能に力点を置いてきたと考えられるが、今後は、メーカー及び小売業の中間に立っていることを強みとし、双方の情報のマッチングを行うことで情報の流れを円滑にするとともに、その情報を積極的にメーカー及び小売業に提供していくことが必要であると考えられる。
小売業がリテールサポートを通じて様々な情報提供を期待していることは前述のとおりである(前掲第213-20図)。一方、メーカーにおいても、「小売売場における商品の売行動向把握とメーカーへの販促計画の提案活動」、「製品開発コンセプト等の製品情報の小売業に対する提供活動」等、小売店の情報を自社にフィードバックさせるとともに、自社の製品情報等を小売店に提示していくという円滑な情報の流れのサポートを、卸売業に期待していることが分かる(第213-21図)。
また、物流に関する今後の期待では、小売業が「納品率」「定時配送」「一括納品」といった従来からの卸機能に加えて、「物流コストの分析と情報提供」「物流システムの開発・指導」を求める一方(第213-22図)、メーカー側からも「小売業の物流コスト削減を可能にするための、卸売業の効率的物流活動」への期待が大きいことが分かる(第213-23図)。卸売業が情報のマッチングを行い、その流れを円滑にすることで、このような物流コストの削減の要請にも応えていくことが可能と考えられる。
このように、卸売業は従来の商品流通機能のみならず、情報の蓄積・マッチングを行い、双方のニーズに合った情報を的確に提示していくというサービスを加えることで、存在意義を見いだしていく必要がある。
第213-21図 卸売業のマーチャンダイジング活動に対する、メーカーの今後の期待(上位5項目)
第213-22図 卸売業の物流活動に対する、小売業の今後の意向
第213-23図 卸売業の物流活動に対する、メーカの今後の期待(上位5項目)
以下では、販売先小売店における情報を生産者にフィードバックして生産者の効果的な商品開発を支援する一方、生産者からの商品情報を販売先小売店を通じて消費者に還元することで高品質の品揃えを目指している事例、及び、自社の物流効率化を図るとともに、仕入先、販売先と電子受発注システムを構築することで情報の流れを円滑にし、ローコストオペレーションを実現した事例を紹介する。
<事例 生産者-消費者間の情報のマッチングを行い高品質の品揃えを目指す>
A社(東京都、従業員数98人)は、乾物・乾麺を中心とした専門問屋として営業を展開している。同社は、販売先小売店における情報を生産者にフィードバックして生産者の効果的な商品開発を支援する一方、生産者からの商品情報を販売先小売店を通じて消費者に還元することに卸売業の存立基盤があると考えている。
同社の取扱商品である乾物・乾麺は、年間を通して同じ品質の商品が供給されるとは限らず、天候などによっても品質の幅が出てくるという天産物ならではの商品特性があるため、農家や集荷業者など仕入先との関係を強化することで、より品質の高い商品を優先的に供給してくれるような関係を維持している。同社では、消費者情報を生産サイドにフィードバックさせることが高品質商品の品揃えの維持にとって重要であると考え、消費者のニーズにこたえるような商品サイズやパッキングの方法を生産サイドに提示している。また、市場の嗜好を配慮しながら商品企画のみならず、パッケージデザイン等についても生産者と共同で取り組むケースもある。そして、企画商品の商品開発コンセプトや、「商品(乾物)における旬」等の情報を、小売店に逐次提供している。
【高品質な商品の仕入れを維持するため、社員教育に力点を置く】
同社では、高品質の商品仕入を維持するためには社員の専門知識の向上が不可欠であると考え、定期的に自社取扱商品についての勉強会を行っている。また、商品の扱い方や種類、調理方法や味など社員個々が持っている知識を交換したり、実際に試食することによって経験豊富な社員からの情報提供を促進できるような環境を整えている。さらに、商品知識の普及のために同社の扱う商品の小冊子を作成して、人材教育に取り組んでいる。このように同社では、専門知識を持った社員が全国の産地を開拓することで、高品質の商品仕入を維持し、納入先のチェーンストアに高く評価されている。
<事例 社内での商品管理を単品レベルに細分化し、
仕入先・販売先の理解を得てローコストオペレーションを実現>
A社(徳島県、従業員数29人)は、手芸卸売業界で初めて電子受発注システムを実現し、ローコストオペレーションを可能とした企業である。電子受発注システム構築の成功の背景には、1)社内での商品管理基準を単品レベルに細分化し、POS端末の稼働が可能な環境にしたこと、及び2)仕入先・販売先について電子受発注システムへの理解を求めたことがある。
【自社の管理基準を単品レベルに細分化】
同社の過去の営業は、手芸材料店を1軒ずつ訪問しながら受注・納品を繰り返していたため、営業担当者1人当たりの低い生産性と高コスト構造を招いていた。そこで社長は、当業界にあってどのようにすれば生き残っていけるかを考えた結果、商品の管理基準をケース単位ではなく、単品での単位価格へと細分化し、POS端末で一括管理できるようにした。また、例えば布地関係の販売単位を10cm単位で価格決定するなど、端数の要求にもこたえられるようにした。さらに、手芸材料は多品種少量という業界特性から、商品にバーコード(JANコード)が印刷されていないケースが多いが、ベンダーにバーコードの採用を呼び掛けた。その結果、受発注の単位レベルが情報システムの稼働レベルと一致するようになった。
【仕入先・販売先に理解を求め、電子受発注システムを構築】
仕入先メーカー及びベンダーとは、EDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)について何度も話し合い、かつ説明会を開いてJANコードの必要性を説き、対応への同意を取り付けた。一方、販売先ともEDIを構築し、納品伝票の入力作業をなくすことができた。また、EDIの構築を望まない販売先への納品は、受注メモを基に商品を品出しした後、JANコードを読み込むことで納品伝票が自動的に出力されるようなシステムを構築した。
この結果、仕入先-A社-販売先がEDIによって結ばれ、1)価格検索時間の削減や価格の間違い防止、及び手書き伝票の起票作業がなくなったことによる省力化、2)売掛金の請求業務や買掛金の入力作業の短縮化、など様々な面で効率化が図られることとなり、ローコストオペレーションが実現された。また、取引先にとっても、正確な商品データの共有を始め、コストの削減や、作業ミスが減少したこと等により、同社に対する信頼を高める結果となった。
中小企業庁ホームページより抜粋